田中宗一郎と宇野維正が語る2017〜2018年の洋楽シーン後編|にゅーじっく

2018年02月14日

田中宗一郎と宇野維正が語る2017〜2018年の洋楽シーン後編

1: 名無しさん 2018年02月14日 15:45:00 ID:0.net

田中宗一郎と宇野維正が語る2017〜2018年の洋楽シーン後編
(全16枚)

2人の人気評論家による3万字超えロング対談「BESTOFTHEYEAR田中宗一郎と宇野維正がナビゲートする2017~2018年の洋楽カルチャー」。前編に引き続き、求められるプロデューサー像の変化や、カルヴィン・ハリスとベックの関係、エド・シーランとUKアンダーグラウンドの活況など、こちらの後編も話題は多岐に及んだ。また、まもなく来日公演が実現するファーザー・ジョン・ミスティとチャーリーXCXにまつわるくだりは、webのみのエクスクルーシブ(初出)となっている。

※この対談記事は昨年12月24日発売の「RollingStoneJAPANvol.01』に掲載されたものです。

テイラー・スウィフトの新作は、あまりにも自己言及的すぎて悩ましい。(田中)

─RSのランキングに再び目を向けると、ロードが2位と大健闘しています。NMEだと彼女が1位でした。

宇野最初のアルバムは大好きだったけど、今回のアルバムはそこまでハマれなかった。


田中宗一郎と宇野維正が語る2017〜2018年の洋楽シーン後編

ロード『メロドラマ』

─向こうで評価されてるのはどういう文脈があるんですか?

田中まず、2013年に彼女が「Royals」でデビューしたときは、2011年にカニエとジェイZがダブルネームで作った『ウォッチ・ザ・スローン』が定義した、いわゆるラグジュアリー・ラップに対するカウンターだったんです。”私たちはロイヤル(高貴)でいたいけど、ラグジュアリーである必要はない”っていう。それをニュージーランドの17歳の少女が歌って、一気にプロップスを得た大事件だった。でも、この4年の間に若いオーディエンスが求めるものがすっかり変わってしまった。ロードが今回の2作目を出す前にコーチェラ・フェスに出演したときは、なかなかに厳しいものがあって。ケンドリックの受け方もすごかったけど、フューチャーのライブにドレイクが登場したときなんて、黄色い歓声が本当にすごかった。ドレイクはほぼ歌わないけど、フィールドの何万人が1曲ほぼ丸々大合唱っていう。

─要するに、ロードはアウェイだったと。

田中つまり、そんな白人の子たちがみんなラップやR&Bを聴いてる時代に、それこそアダムとイブの時代からずっとマイノリティであり続けてきた女の子たちに何を語りかければいいのか。それを引き続き彼女はやったんですね。先行シングルの「GreenLight」って、たぶんエリック・ロメールの映画の引用だと思うんだけど、共依存的な関係にあったボーイフレンドとの関係を断ち切って、次に進むことについての曲なんですよ。それって自立という永遠のテーマでもあるし、トランプ政権誕生の後のサウンドトラックとしても聴くことが出来る。そう考えると、”ポップ・アイコンとしての私の評判”をモチーフにしたテイラー・スウィフトの新作よりも、地に足の着いた少女の立場から歌ったレコードの方が評価されるのは、当然だよね。

宇野テイラーのアルバムは売れてるんでしょ?

─アルバム・チャートをしばらく独走してました。

田中でも、評価は低い。実際、これまでのテイラーって常に前作よりいい作品を作ってきたんですよ。でも、初めて前作よりも劣る作品を作ってしまった。だから、RSがこれを7位に選んでいるのは、良くも悪くも”らしさ”が出てる。

─他媒体のベストでは、そんなに見かけなかったですからね。


田中宗一郎と宇野維正が語る2017〜2018年の洋楽シーン後編

レピュテーション』テイラー・スウィフト
パーフェクトな優等生であり続けたがゆえに、近年はバッシングに見舞われていたテイラー。SNS時代に歪曲されがちな”Reputation=評判”をテーマにした本作では、好戦的な構えでリベンジを遂行。ダークな雰囲気は昔と別物だが、セールス的には2017年最高の数字をマーク。

田中『レッド』期からずっと彼女の大ファンを公言してきた自分としては本当に悩ましいんだけど。ここ2作ではアルバム毎に常に新しいサウンドとテーマを提示してきたのに、今回はインダストリアル寄りのサウンドも彼女にもあまりフィットしてないし、リリックもあまりにも自己言及的すぎる。

宇野きっと、作らざるを得なかったんでしょうね。

田中そこしかテーマがなかったんだと思う。もはや生身のテイラー=ポップアイコンとしてのテイラーだし。今回の彼女のアルバムのアートワークって、NYタイムズみたいな彼女を批判し続けてきた東海岸リベラルに対する当てつけだと思うんだけど。でも、同じく保守的な価値観をリプリゼントしてきた宿敵ケイティ・ペリーがいきなりグラミーでトランプ批判のパフォーマンスを始めて、思いきりすべったりしてるし。あれは見てられなかった。

宇野もう選挙戦は終わったわけだから、今どうこう批判するよりも先のことを考えるべきであると。今さらトランプ批判をしても自己満足にしかならないっていうことですよね?

田中そう。余計なトランプ批判はさらなる分断に火をくべるだけだって考え方もあるわけだしね。

アトランタが世界のリズム、北欧が世界のメロディを決めてると言っても過言ではない。(宇野)

─RSのランキングに話を戻すと、ロックについてシビアな話もありましたが、U2が3位、LCDが5位、クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジが8位、ザ・ナショナルが11位、セイント・ヴィンセントが18位、ファーザー・ジョン・ミスティが19位と上位に入っています。

宇野さっきロードの新作にあまりハマれなかったと言いましたけど、要はソングライティングとプロデュースにかかわっているジャック・アントノフの仕事にピンときてないんだと思います。テイラーの新作にも彼が携わってますよね。

田中その辺りは、2010年代前半を牽引したのがプロデューサーだったっていう歴史的な文脈から見るべきだと思う。ここ10年間はマックス・マーティンという北欧出身のプロデューサーが主導した時代だった――まずそこを押さえなきゃならない。それこそテイラー・スウィフトからウィークエンドに至るまで、ここ数年のビルボードに入っている200曲のうち、8割もマックス・マーティンが関わってた。で、彼が築き上げたスタイルというのがあって。

宇野トラック&フック・メソッドですよね。

田中そう。自分自身がソングライターやプロデューサーとして関わりながら、別のソングライターやプロデューサーも複数人交えつつ、トラックを作る人と、その上に乗っかるフック――コーラス(サビ)のメロディを作る人みたいに分業体制によるシステムが2010年代に確立されたんですよ。

─なんで、そんなことをやろうとしたんですか?

田中そもそも40年代のブリル・ビルディングや、60年代のモータウンから続く伝統の現代版でもあるんだけど。ただ経緯の話をすると、これまた古い話になるけど、90年代前半に渋谷系とスウェディッシュ・ポップが世界的に発見されたでしょ?その前後でスウェーデンが国策としてポップミュージックをサポートし始めた。無料でスタジオが借りられたり、助成金が出るようにして、ソングライターとプロデューサーを育てたんですよ。そういう流れも関係してる。

宇野今の音楽シーンの見取り図を考える時に、アトランタともう一つどこが重要かといったら北欧なんですよね。アトランタが世界のリズム、北欧が世界のメロディを決めてると言ってもいい。あとはSpotifyがスウェーデンで生まれたのも重要で。これも今となっては非常にクリアだけど、アヴィーチーやカイゴがブレイクした背景にも、Spotifyが推してたことが関係しているんですよね。自国のアーティストをSpotifyがプロモートしたことによって、世界中がハマってしまったという。

田中その通り。2017年にはEDMからポストEDMという動きもあったけど、それを後押ししたのも北欧で。『Empire 成功の代償』っていうTVドラマがあるでしょ?主人公のモデルは恐らくジェイ・Zとかドクター・ドレなんですよ。貧しいブラックがラッパーとして大成した後、次世代の3人の息子たちが彼の遺志や遺産をそれぞれどんな風に受け継ぐのか?――そのドラマを『リア王』をモチーフにして描いてるんだけど。そもそも監督のリー・ダニエルズは、白人中心の社会にどう向きあうのか?っていうテーマの映画をずっと撮ってきた人で。

宇野そうですね。

田中その『Empire』の劇中で北欧のプロデューサーが登場するんだよね。ナードな風貌の白人2人組が英語じゃない言葉で話してて(笑)。要は、売れっ子の北欧プロデューサーをいくつかのレーベルが取り合うっていうプロットなのね。そうやってドラマでネタにされるくらいだったという背景がある。

宇野一つ前の時代でいうと、ニーヨを仕掛けたスターゲイトもそうですよね。彼らはノルウェー出身だけど。

田中そうそう。だから、コールドプレイをUKのインディ・バンドからアメリカのポップ・バンドに生まれ変わらせたのが、他ならぬスターゲイト。で、そういう北欧系プロデューサーの代わりに、存在感を強めたのが、さっき(前編)も名前が挙がったメトロ・ブーミンとマイク・ウィル・メイド・イット。ちなみに、2017年の上半期に一番成功したプロデューサーはメトロ・ブーミンだったっていうニュースもあったでしょ?それはついにマックス・マーティンの時代が終わったことを意味しているんだよね。

─実際に2017年、マックス・マーティンの名前はあんまり見かけなかったですよね。

田中やっぱりこういう変化って時代の要請だから。そういう流れを受けて、2017年目立った活躍を見せたロック系プロデューサーが、以前はベックのバンドのメンバーでもあり、アデルの「Hello」でグラミーを受賞したグレッグ・カースティン。次いで、ファン.のギタリストでもあり、自らブリーチャーズというバンドを率いているジャック・アントノフ。もう一人はこれもかなり長い間、ベックのバンドでベースを弾いていたジャスティン・メルダル・ジョンソン。彼ら3人も間違いなく2017年の顔だったんじゃないかな。ジャック・アントノフはロードやテイラーだけじゃなく、RSのチャートにも入ってるセイント・ヴィンセントを手掛けたし、ジャスティンの場合はウルフ・アリスを2017年の英国でのNo.1バンドに押し上げることに一役買った。おそらくミドルロードのロック・バンドの中では2017年一番よかったパラモアのレコードも彼の仕事だった。

─かたやグレッグ・カースティンは、フー・ファイターズやベック、リアム・ギャラガーまで手掛けていました。こういったプロデューサーが起用されることになったのは、どういう背景があったのでしょう?

田中ラップとポップ全盛の時代に売れるレコードを作るためでしょ(笑)。2017年的なサウンドを模索するため。バンドが4人でスタジオ入りして、リフから曲を組み立てて行く――みたいなやり方を根本的に変えるためには、ポップスの方法論を一回取り込んでみませんか?という発想ですよね。特にリアム・ギャラガーみたいにヴォーカリストしては一角だけど、大した曲は書けない人にとってはうってつけだったってことじゃないですか。複数の人たちの力で、メイン・ヴォーカリストに向けたアイデアを広げた方が面白いものが作れる。それを一番最初に実践したのがマルーン5でしょ?

宇野そうですよね。


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U2『ソングス・オブ・エクスペリエンス』
代表作『ヨシュア・トゥリー』30周年リイシュー&ツアーを経て届けられた通算14作目は、エモーショナルでポリティカルなU2節が全開。焦点の定まった音作りが”王道のロック”を蘇らせ、80~10年代それぞれで全米1位を記録するという史上初の快挙を達成した。

田中その尻馬に乗ったのがコールドプレイ。で、どちらも商業的には世界一のバンドになっちゃった。だから、そこに対する反撃ですよね。ただ、ミイラ取りがミイラになったケースの方が多いんだけど(笑)。でも、U2の新作でさえ、カイゴのリミックスがあってようやくアクチュアリティが得られてるって状況もあって。そもそも50年代から60年代にかけてロックというジャンルがクラシックやジャズを追い越した理由は、それまで使われたことのなかった音色やプロダクションの進化だった。ビートルズがすごかったのはそこでもあるわけでしょ?でも、この10年、ロックはその自らの伝家の宝刀を忘れつつあった。だからこそ、2017年良かったロック・レコードというと、やっぱりスプーンみたいにロックのプロダクションを独自に進化させようとした作品ばかりなんだと思うんですよね。

宇野U2のアルバムは思った以上に大味だったけど、この最大公約数みたいなものを彼らはやらなければいけないんだな、真剣にやっているんだなって思うと評価をしないわけにはいかない。当然のように、アルバムにはケンドリック・ラマーも参加していて。

田中彼らが20世紀に残した傑作群には及ばないけど、21世紀になってからはベストだよね(笑)。だから、RSが3位に入れてきたのはよくわかる。やっぱりコールドプレイじゃなくてU2なんですよ。あのラフさ、シンプルさ、ストレートでダイレクトなメッセージ性。紛れもないロック・アルバムだし。

宇野U2は偉大ですよ。せめてU2くらいは2018年、日本で見たい。

カルヴィンとベックの新作は、Spotify全盛の時代に何をやるべきか?を考え抜いた作品。(田中)

─宇野さんのカルヴィン・ハリスと、タナソーさんのベック。お二人がプッシュしてきた2組についても伺いたいです。

宇野最初の話に戻ると、2017年の上半期はまるで高校生の頃に戻ったような無邪気な気持ちで音楽に興奮して、初めて海外に行ったときみたいな気分でLAでラップのライブをはしごして、そこでずっと聴いてたのがカルヴィン・ハリスの今回のアルバムだったわけですよ。こうやってEDMサイド、白人サイドからもウェストコースト・ヒップホップの再検証があって、ここからまた新しい時代が始まるんだろうなって。で、そこに冷や水かけられたのが、2017年のサマソニのトリでのいわゆる”カルヴィン事変”ですよ。

田中(笑)。

宇野あのアルバムは、ある種、ポップ・ミュージックのユートピア的な世界を具現化してた作品だったと思うんです。でも、この時代、やっぱり興行ってものがどれだけミュージシャンにとって大きいのか、サマーソニックでまざまざと見せつけられて……。結局カルヴィンはもうツアーをやらない、毎週末ラスベガスのクラブで回しているだけの人なんですよね。それが一番儲かるし楽だから。


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カルヴィン・ハリス『ファンク・ウェーヴ・バウンシズVol.1』

田中今の彼は、興業中心のEDMの世界では最前線にはいなくて、乱暴に言うと、晩年のエルヴィス・プレスリーみたいな位置なんですよ。今だと、日本だけでは大きなコンサートがやれるブリトニー・スピアーズみたいな。

宇野あるいはセリーヌ・ディオンとかね。あれだけ豪華ゲストを呼んで、すごいレコードを作るための基盤としてラスベガスの興行があって。たまたま日本のフェスに呼ばれたから、ラスベガスでやっていることをそのまま日本のスタジアムでやっちゃった。あれはなかなか強烈な体験でしたよ。悪い意味で。

田中正直キツかったよね。フジやサマーソニックと比べても、ULTRAJAPANって世界の潮流と一番クロスオーバーしてるフェスでしょ?あれがあったからEDMだけはしっかり普及していたかと思いきや、4年前のまま止まってたと。まあ、懐メロがうれしかったっていう反応だったんだろうけど。

宇野サマソニまで日本では『ファンク・ウェーヴ・バウンシズ Vol.1』が調子良く売れていて、本当はそこで加速がつくはずだったんだけど、サマソニで止まっちゃった(笑)。だから、CDが出て、ツアーやフェスでの来日があってという、従来の洋楽のプロモートの仕方がもう通用しないんだなって。興行は興行でデカ過ぎるし、CDはあくまでも向こうではグッズの一つだし、それを連動させるのが難しい時代に入ってきてしまった。

田中良くも悪くもカルヴィンの新作って2017年のビッグ・イン・ジャパンの一つだよね。ある意味、ベックもそうだけど。

─どちらも年間ベストの上位に入ってるのはほぼ見かけなかったですね。RSだとカルヴィンは選外です。

宇野え、そうなの?向こうでもそれなりに売れたんだけどな……。

田中間違いなく志は高かった。もはやカルヴィン自身は今の興業中心のEDMの世界には未練はなくて、DJではなくプロデューサーとしてやっていきたい、だからこそ今回みたいなレコードを作ったわけだけど。ただ、あまりにも急激に変化する状況からは弾かれちゃった。この作品に対してはネガティブなことは言いたくないんだけど、ホント難しいなぁーって。

宇野自分は責任持って年間ベストの1位にしましたよ(笑)。アルバム単位では、一番聴いた作品であることに間違いはないわけだし。

田中でも、やっぱり「Slide」はすごかったよね。2017年屈指のサマーソングだったわけだし。それにフランク・オーシャンが書いた”銀行口座を空っぽにして、『パイプを持つ少年』(ピカソの絵画)を買っちゃおうか”っていうラインは2017年のベスト・リリックでしょ。富や名声に対する批判でもあったし、”アートこそが一番重要なんだ”っていうメッセージでもあるから。

宇野そうそう、あのリリックに時代の空気が全部が入っていた……はずなんだけど(苦笑)。タナソウさん、ベックはどうでした?

田中俺はカルヴィンのアルバムと同じフォルダに入れてるんですよ。志の高い健闘作っていう。ラップとポップ全盛、Spotify全盛の時代に何をやるべきか?を考え抜いた作品。

宇野そうですね。


田中宗一郎と宇野維正が語る2017〜2018年の洋楽シーン後編

ベック『カラーズ』

田中今は分断の時代です、ロックがサブカル化しています――そういう時代におけるオーセンティックなポップとは何かを考えて、ビートルズ、ドゥービー・ブラザーズ、スティーヴィー・ワンダー、ポリス辺りを引用する一方で、ビートはすべて生ドラムのチョップで組み立てて、Spotify対応もばっちりっていう。ほぼグレッグ・カースティンと2人で作ったようなレコードだから、マックス・マーティン以降の世界にもしっかりと楯突いてるんだよね。ベック本人と話をして納得したのが、ジャスティン・ビーバーって「Loser」が出た94年に生まれているんですよ。で、ベックが前作でグラミーを獲ったとき、彼の友人だかがベックのことを新人だと思ったんだって。そりゃ、ゼロから考え直さなきゃって気分にもなるよね。実際、どのロック・バンドよりもそういう問題意識が成功していると思う。

宇野それこそ、さっき言ったヒップホップを通過してきたかどうかが重要という話でいうと、ベックはキャリア初期の段階からビースティー・ボーイズの『ポールズ・ブティック』で名を上げたばかりのダスト・ブラザーズとやってたわけですからね。90年代アメリカのロックのソロ・ミュージシャンでは唯一と言えるくらい正しかった。

田中しかも、「Wow」みたいなトラップを独自解釈した曲も作りながら、「『オディレイ』時代からTR-808だけのヒップホップっていうアイデアは持ってた」なんて言ってて。要は自分の方がトラップよりも10年以上早かった、みたいな主張なんですよ。対抗意識丸出しで最高でしょ?(笑)。あとは、さっき今の時代は「モザイク状に入り組んだ衝突が起きている」という話をしたけど、白人の側でそこと向き合ったレコードを作ったのは、他ならぬベックだった。そういう見方もできる。

─アルバムのタイトルが『Colors』なのも、”(黒や白だけでなく)いろんな色が一緒に存在する”という意思表示ですもんね。ただ、RSのランキングだと意外にも42位止まりで。

宇野リアムより下なんだ。これは気の毒だな(笑)。

2017年は、グライムを筆頭に英国のアンダーグラウンドが花開いた年でもある。(田中)

宇野ところで、エド・シーランってどうでしたか?

田中え、いきなりなんで?(笑)

宇野同時代のシーンの動きに鈍感な今の日本の洋楽リスナーにとっても、エド・シーランとブルーノ・マーズはビッグな存在じゃないですか。逆に言えば、そのエド・シーランがビヨンセと共演したり、マルーン5経由でケンドリック・ラマーを知ったり、そういう文脈が日本のリスナーにとって、(洋楽を広めるうえで)ある種のブレイクスルーになりうるんじゃないかと思うんですよ。


田中宗一郎と宇野維正が語る2017〜2018年の洋楽シーン後編

エド・シーラン『÷(ディバイド)』

田中実際、エド・シーランは重要だと思います。まあ、今回だって、別に大したレコードじゃないんだけど。

宇野うん、全然ね。

田中ただ、この北米と北欧中心の時代にあって、彼は自分がイギリスのアーティストなんだという矜持を持っている。2017年というのは、グライムを筆頭に英国のアンダーグラウンドが花開いた年でもあるんですよ。個人的にも10年ぶりくらいに英国の音楽を貪るように聴いたんだけど、エド・シーランはそういうアンダーグラウンドの流れとつながってるんだよね。彼は2017年ブレイクしたグライム新世代のラッパー、ストームジーとも仲が良くて、世界的にメガ・ヒットした「ShapeOfYou」にしても、彼のリミックスがあったりする。

エド・シーランとストームジーの「ShapeOfYou」セッション映像

宇野そういう文脈もあるし、「ShapeOfYou」はトロピカル・ハウスであり、ダンスホールでもあるわけですよね。

田中その通り。2017年の英国で一番刺激的だったのは、ジャマイカ産のダンスホール・レゲエと、ここ10年間ずっとロンドンのアンダーグラウンドで培われてきたアフロビート――フェラ・クティの時代のアフロビートとはまた別物なんだけど、その二つを合体させたアフロ・バッシュメント(AfroBashment)と呼ばれるジャンルなんですよ。だから、「ShapeOfYou」はそういう流れもきちんと意識しつつ、それを一番ポップでウェルメイドに仕上げた。その流れも踏まえれば、『÷(ディバイド)』がただフォーク・シンガーが、売れ線のポップスに歩幅を合わせただけのレコードではないっていうのが見えてくる。

宇野それって、リアーナがディプロの曲を評して”エアポート・レゲエ”(空港で流れてるレゲエ)とディスった、その流れを踏まえているわけですよね?。

田中この辺り、国や都市、ジャンルや時代の流れが交錯しまくってて、すっごくややこしいんだよね(笑)。だからこそ面白いんだけど。2016年〜2017年にかけて、トラップと同じくらい大流行したリズムがダンスホールでしょ?最初にやったのは(ディプロが参加する)メジャー・レイザー、2015年の彼らのメガ・ヒット「LeanOn」だよね。で、さらにその流れを爆発させたのが2016年の夏、ドレイクの「OneDance」。後者の曲で一緒にやってるのが、ウィズキッドっていうナイジェリアのシンガーで。この辺りに英国を経由とした西アフリカと、ジャマイカ移民が多いドレイクの出身地であるカナダ・トロントとのコネクションが見えてくるんだけど。で、それと前後して、ヴァースにドレイクを呼ぶ形で、リアーナが「Work」を作った。この曲もアデルに負けて、グラミーを逃しちゃったんだけど2016年屈指の1曲だったと思うんですね。ちなみに、この曲は、ボーイ・ワンダ(Boi-1da)っていう、やっぱりドレイクの作品に携わってきたカナダのプロデューサーが手掛けていて。

宇野そうですね。


田中宗一郎と宇野維正が語る2017〜2018年の洋楽シーン後編

J・ハス『CommonSense』

田中で、俺が2017年一年、「これ何なんだろう?」と思いながら、とにかく夢中になって聴いたのがJ・ハスの『CommonSense』なんですよ。彼はグライム新世代のラッパーなんだけど、彼のアルバムを聴いたり、他を掘ったりする中で、ようやくいろんな背景が見えてきて。というのは、これまでUKの音楽を更新させてきたのはジャマイカだったじゃない?

宇野まぁそうですね。90年代のトリップ・ホップもそうだし、もっと昔のパンクや2トーンもそうだった。

田中マッシヴ・アタックもそうだし、ジャングルもグライムも、どれもジャマイカ音楽とは切っても切れなかった。でも、今のUKはガーナとかナイジェリアからやってきたアフロ・ディアスポラの存在が大きくて。だから、そこに西アフリカのサウンドがクロスオーバーしだしている。つまり、そういう英国での新しいクロスオーバーに北米からいち早く目を付けたのがドレイクなんですよ。彼の『MoreLife』という作品って、スケプタやギグスみたいなグライム・ラッパーを呼んでるでしょ?

だから、そんなふうに聴いていくと、見事にすべてが繋がっていちゃうんですよ。ムラ・マサがチャーリーXCXとやった「1Night」とか、2016年のネイオ(NAO)のアルバムとか、「Thexxのジェイミーがヤング・サグとポップカーンと作った曲はホント早かったんだな!」とか、2017年になってメジャー・レイザーが一緒にやったナイジェリアのシンガー、ミスター・イージー(Mr.Eazi)がウィズキッドのレーベルと契約してたり、その曲でフィーチャーされてるフレンチ・モンタナがJ・ハスと互いにリミックスをやってたりとか。「うわー、全部、つながってんだな!」っていう。で、そのすべての中心にドレイクがいたっていう。


田中宗一郎と宇野維正が語る2017〜2018年の洋楽シーン後編

Drake『MoreLife』

宇野あのレコードには南アフリカのプロデューサー、ブラック・コーヒーも参加してますしね。僕も『MoreLife』はかなり重要な作品だと捉えています。それにドレイクやジャスティン・ビーバー、ウィークエンドとみんなカナダ人で、それがUKとのリンクにも繋がっている。ドレイクが南アフリカのハウス・シーンと繋がったのも、ヨーロッパを経由してるから。

田中ポップ音楽の歴史を紐解くとカナダって常に重要で、例えばニール・ヤングやザ・バンドとか、アメリカの伝統音楽をもう一回新しくした人たちってカナダ人なんですよ。ゼロ年代のアーケイド・ファイアにしたってUSインディの起爆剤の一つだし。アメリカにはない、独自のパースペクティブでポップスを更新させるポジションとしてカナダは機能してきた。

宇野それこそジョニ・ミッチェルだって、プリンスからジェイムス・ブレイクに至るまで、アーティストたちの重要なインスピレーション源になってきたわけですしね。

─じゃあ『MoreLife』が用意したパースペクティブとは、具体的にどういうものなんでしょう?

田中画期的だったのは、彼がこの作品を”アルバム”ではなく”プレイリスト”と呼んだこと。RapCaviar全盛の時代に、他人がSpotifyで作ったプレイリスト経由じゃなくて、自分のアルバムをどう聴かせるかっていう着想ですよね。ストリーミング時代の寵児がその次を目指そうとした。実際にプレイリストの名にふさわしく、新しい才能やサウンド――さっきから名前を出てる人たちを紹介してるんですね。それこそ、『MoreLife』を出す前に、彼はスケプタのレーベルと契約を結んだんだけど、そうやって英国とのコネクションを強化してたんです。

─さらに、ミーゴスのクエヴォやヤング・サグ、カニエ・ウェストといった面々も参加しているんですよね。そのシームレスな感覚も”プレイリスト以降”というか。

田中ですね。ただ、そういった英国中心に起こっていたことを見ていたのはドレイクだけじゃなくて。例えば、J・ハスの「DidYouSee」という全英9位になった代表曲があるんだけど、俺がこの曲を知ったのはBlondedRadioなんですよ。

宇野フランク・オーシャンの目利き力はすごいですよね。BlondedRadio経由で、英国のインディ・コレクティブ、スーパーオーガニズムが全世界で発見されたり。

田中ホントにすごい。ジャンルとか国籍とかまったく関係ない。RapCaviarとはまったく違う文脈や才能を世界中に発信してる。もはや単なるR&Bシンガーとかってことじゃないんですよ、彼は。これまでザ・ストリーツやイギリスのラッパーたちが国外で長らく評価されてこなかったことを思うと、J・ハスの音楽をアメリカのメディアやラッパーが賞賛することになった経緯にも確実に関わってるわけだから。

宇野『MoreLife』に話を戻すと、この作品はいろんな変化を象徴していると思うんですよ。まず、(ストリーミングの普及で)アルバムとミックステープの境界線がなくなってきているなかで、『MoreLife』のようにジャケットのアートワークでオフィシャルに”プレイリスト”を謳うものまで出てきた。そうやって現在は、アルバムという概念がエキサイティングな形で溶けてきている。次に、自分がSpotifyを使いだしてから痛感したことがあって。日本だと未だにCDからストリーミングへの移行っていう話が語られることが多いけど、海外ではその段階はとっくの昔に超えていて、今はiTunesみたいに音楽を管理する時代が終わろうとしていて、ライブラリが意味を成さなくなってきている。要するに、所有の概念がフィジカルどころかデータでも揺らいでいる。

─CDやmp3を所有しなくても、定額制の料金さえ支払えば、いくらでも音楽を聴けるようになったわけですしね。

宇野今は、音楽もみんなスマホで聴いてるし、自宅にはスマートスピーカーが導入され始めている。そういう環境で『MoreLife』のトロピカル・ハウスや、エド・シーランの「ShapeOfYou」を聴いてみると、それらの曲は下の音域がなくて、メロディアスで、なおかつ気持ちいいビートが刻まれているという、スマートスピーカー時代に一番適合した音作りをしていることに気付く。アルバムの概念がなくなり、ライブラリーの概念がなくなり、音楽の聴き方がスマートスピーカー的なものになっていく。これが何を意味するかというと、ポップ・ミュージックがイージー・リスニング化しつつあるとも言える。

─さっき話に出たリアーナの”エアポート・レゲエ”も、そういうBGM的な意味合いを指していたわけですよね。

宇野そう。その3つの変化が、音楽シーンやアーティストの音作りそのものにも影響を与えているという事実は、今後ますます重要になってくると思いますね。

今、白人のティーンは辛いと思う。そんなときに救いになるのが「Rockstar」。(田中)

─2017年を代表するヒット・シングルを3つ選ぶなら、全米チャートで11週連続(合計12週)1位に輝いたエドの「ShapeOfYou」、同じく16週連続で1位となったルイス・フォンシ&ダディー・ヤンキーの「DespacitoRemix(feat.JustinBieber)」、そして8週連続1位のポスト・マローン「Rockstar(feat.21Savage)」になるのかなと。

宇野世界中で(人口が増えている)ヒスパニックの人たちがSpotifyで音楽を聴くようになったことによって、スペイン語圏のポップ・ミュージックがチャート上に占める割合も大きくなっているんだよね。そのなかでも一番のヒット曲が「Despacito」で、ジャスティン・ビーバーが加わってさらに火が点いたと。

─曲はいわゆるレゲトンで、史上最大のラテン・ヒットとなったみたいですね。

田中ロック特有の8ビートというのは世界言語じゃないってことは随分前から繰り返し言われてたことだけど、これからはそれがSpotifyのチャートを通してもっと可視化されていくんじゃないかな。この曲はまさにその象徴。あと、「Rockstar」のメガ・ヒットに関しては6〜7年前からの流れと繋がった現象として見てます。それこそタイラー・ザ・クリエイターやラナ・デル・レイが脚光を浴びだしたときから、2017年になってXXXテンタシオンがブレイクして、リル・ピープが亡くなる(オーバードーズが原因で、11月に21歳の若さで死去)までの流れ。

あるいは、グラミーにノミネートされたロジックの「1-800-273-8255」みたいな曲(自殺防止ホットラインの電話番号をタイトルに冠したメッセージ・ソング)を並べると見えてくるものがある気がする。あと、この曲のリリースとまさに同時期に全米を騒がせたNetflixドラマ『13の理由』とか。その『13の理由』のエグゼクティブ・プロデューサーを務めてたのがセレーナ・ゴメスだったってこととか。


田中宗一郎と宇野維正が語る2017〜2018年の洋楽シーン後編

ロジック『Everybody』
ブラックにもホワイトにもなりたくない、俺はただの人間でいたい”とラップする「BlackSpiderMan」に顕著な通り、黒人と白人のミックスであるロジックが人種問題と向き合った一枚。音自体はキャッチーで初の全米1位を記録。「1-800-273-8255」はSKY-HIによるビートジャックも話題に。

─というと?

田中リリックのモチーフとして、2010年代を通して最大のトレンドだったのは、ティーンが抱える鬱や自殺願望だってことなんです。「Rockstar」って曲は、ここ数年ずっと言われてきた”ラッパーこそが現代のロックスターなんだ”っていう世間のイメージをそこにクロスオーバーさせてる。歌詞に、オーバードーズで死んだボン・スコット(AC/DC)やジム・モリソン(ドアーズ)の名前をわざわざ引用したり。だから、ここ最近欅坂46で秋元康がやってることにも近くて、求められているものに応えた結果がヒットに繋がったっていうか。

実際、今、白人のティーンは本当に辛いと思うんですよ。だって、自分たちのカルチャーにカッコいいものが何一つないから。それに生活のことを考えたら、共和党やトランプに投票するしかなかったり。そういうときに救いになるのが、この曲だったりする。そういう現実の反映なんじゃないかな。ブラックの若者はこの曲を聴かないと思う。だから、なかなかこれは苦々しい……。

宇野苦々しいですねぇ。でも、2017年のシーンを象徴するのは本当にこの辺りだと思う。リル・ピープがあまりにも早くあんなことになっちゃったけど、このモードが2018年も引き継がれることになるのかどうか。今のヒップホップって、昔でいうところのカート・コバーンがたくさんいるような状況でしょ?カートはパンクに憧れたわけだけど、現代のカートたちはラップに憧れている。それは、”livinrichanddyinbroke”的な生き方だけでなく、フランク・オーシャンのようなDIY的なやり方も含めてね。それが今後どうなっていくのかは気になりますよね。

─昔のグランジみたいに、刹那的な才能がたくさん出てきているということですか?

田中刹那的なのかな?KORNだとか、その後のマイ・ケミカル・ロマンスみたいなポップ・エモにむしろ近い気もするけど。自傷的な内省っていうか。ただブラックのラッパーはそういう鬱や自殺願望っていうトレンドを利用してるところもあると思うんですよ。ケンドリック・ラマーが言うところの”コカインってのは、やるものではなく売るものだ”というストリートの発想っていうか。例えば、リル・ウージー・ヴァートの「XOTourLlif3」もそういう文脈で聴かれたんだけど、実はそうじゃなくて、Geniusがわざわざ「XOTourLlif3」をモチーフにして、2017年曲解されたリリックっていうマーチまで作ったりもしてて。でも、そういう流れをまともに正面から受け止めた白人ラッパーのリル・ピープが死んでしまった。そんな視点もあると思う。実際にそういうことが起きて、今後どうなっていくのかという話だよね。

─最初の方(前編)で、宇野さんが「2017年の一曲を選ぶならリル・ウージー・ヴァートの”XOTourLlif3”だけど、あの曲はXXXテンタシオンなどの流れに繋がる」と仰ってたのも、そういうことなんですね。

宇野そう。XXXテンタシオンの『17』は出た当初は音楽的にはあんまりピンとこなかったけど、最近になってその背景がいろいろ見えてきて、自分も評価が変わってきた。


田中宗一郎と宇野維正が語る2017〜2018年の洋楽シーン後編

XXXテンタシオン『17』
逮捕に引退宣言など物騒なエピソードも多い、フロリダ出身の19歳ラッパーで愛称はエックス。「LookAtMe!」という曲をドレイクが盗用したと話題になり、注目を集めたのち本作を発表。エモやグランジを背景に持つ、パーソナルで鬱々としたサウンドが胸に刺さる。

田中あのレコードは全11曲で21分しかない、そこが一番のポイントだと思う。ビートルズの『ラバー・ソウル』みたいな60年代の傑作アルバムはどれも35分とかでしょ?だから、アートとしての方向性としても的を得てる。と同時に、今はストリーミングの時代だから、短い方が何度も聴かれるっていう発想もあったと思う。

宇野またケンドリック無双の話になってしまうけど、XXXテンタシオンにいち早く反応したのも彼なんですよ。『17』が出た瞬間に「今5周目を聴いてる」ってSNSに投稿しているんですよね。そういう話でいうと、あんなに一人勝ちしていたケンドリックが、SZAの『Ctrl』が6月に発表された途端にアカウント画像をあのアルバムのジャケットに変えて、未だにそのままなんだよね(笑)※。

※2017年末の時点。現在は自身が音楽面をプロデュースした『BlackPanther:TheAlbum』のジャケに変わっている

─SZAとケンドリックはTDEのレーベルメイトですよね。あのアルバムはどうでしたか?

宇野SZAの音楽は言ってみれば、ある種の白人音楽がもつ気怠さに対しての、ブラック・ミュージック側からの回答みたいな感じですよね。2016年でいうとソランジュのアルバムも似たようなムードをまとっていたけどちょっと優等生っぽすぎて、SZAの場合、もっと文系不良っぽいんですよ。だって、SZAが一番影響を受けたアーティストとして挙げているのは映画監督のウェス・アンダーソンですからね。「お前はシネフィルか!」って話ですよ(笑)。それでいて、ストリートっぽさもちゃんとある。


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SZA『Ctrl』
ウータン・クランRZAへの憧れからSZA(シザ)を名乗る90年生まれの女性シンガー。ファレルやケンドリックも参加し、メロウなR&Bとオープンマインドな感性が詰まったデビューアルバムは全米3位を記録。収録曲「DrewBarrymore」のビデオにはドリュー・バリモア本人も出演。

田中優等生ということで話すと、2016年のコモンやア・トライブ・コールド・クエストが出た時に思ったのは、ああいったコンシャスネスって少し遅すぎた感じがしたんだよね。2015年に出るべきレコードだったっていうか。

宇野トライブはまだラスト・アルバム特需みたいなものもありましたけど、スティーヴィー・ワンダーまで招集したコモンの力作は見事に無視されましたよね。2016年でいうとアリシア・キースもそう。あれだけのスターだった彼女が、スッピンのジャケットで、あんなに音楽的に豊かな作品を作っても、まったく売れないし評価もされない時代。今はシーンのスピード感とムードにのれないと、本当にしんどい。

田中それこそ2016年はビヨンセが、女性たちをエンパワーメントしようとしたことが象徴的だったと思うんだけど、2017年はむしろそれ以前に「もうどうしようもない、どうしていいのか分からない」ってフィーリングをまず共有しておかないと、っていうムードもあったと思う。じゃないと、みんな自律神経をやられちゃうからさ(笑)。SZAのアルバムはそういうムードとも共振してたんじゃないかな。個人的にも「LoveGalore」ってホント何度も聴いた曲なんだけど、破滅的な恋愛に溺れる歌でもあるでしょ。

あるいは、ラナ・デル・レイのノスタルジアやドリーミーさって反動的なものじゃない?リリックにしても、コーチェラに遊びに行った帰りにウッドストックのことを思い浮かべたり。でも、まずはそこを表現しないとリアリティがないんじゃないか?前を向くより、一度立ち止まったり、うずくまったりするべきなんじゃない?っていう。そこに然るべき2017年らしさがあった気がします。


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ラナ・デル・レイ『ラスト・フォー・ライフ』
盟友リック・ノウルズに加えて、マックス・マーティンやメトロ・ブーミンも助太刀した5作目では、フィル・スペクターの様式とセピア色の歌声が、トラップ以降のプロダクションと融合。エイサップ・ロッキーやスティーヴィー・ニックスなどがゲスト参加。

宇野そういう文脈でいうと、僕が2017年のロックのアルバムで一番よく聴いたのは、シガレッツ・アフター・セックスなんですよね。フランク・オーシャン経由でエリオット・スミスが再評価されているのとも同じ現象だと思うけれど、今の時代に白人のロックが生きるべき方法があるとすれば、普遍的ないい曲を書いて、80年代なら80年代、90年代なら90年代という、あえて時代に紐付けられたプロダクションで鳴らしたノスタルジックなレコードを作るってことだろうなって。これはラナ・デル・レイにも言えることだけど、今はある種の”気怠さ”というものが、白人が音楽をやるときの武器なんだろうね。

田中ある種の退廃性、逃避主義の先にある官能だよね。どうしていいか分からない時代だから、とりあえずセックスやドラッグに溺れたいっていう。実際、それが正直なところだと思うし、そこでカッコつけても仕方がないっていう。ラナ・デル・レイのアルバムは評価や売上はちょっと微妙ではあるんだけど、「GroupieLove」や「Love」はホントよく聴いた。2017年屈指のポップ・ソングだと思います。

2017年のロックで一番良かったのはファーザー・ジョン・ミスティ。(田中)

─話は変わりますが、RSのランキングのなかで、ロックからもう一組挙げておくとすれば?

田中一番良かったのはファーザー・ジョン・ミスティ。彼のアルバムは「これって73年のレコード?」みたいなプロダクションなんですよ。ここ10年のUSインディのプロダクション進歩主義に対する冷や水としても機能してる。「音楽を更新させる必要ってあるの?それよりも聴かれるべき人に聴かれるべきでしょ?」っていう、ちょっと偽悪的なスタンス。もちろん、二コ・ミューリーみたいなゼロ年代USインディの最重要人物にもストリングス・アレンジを任せたり、現代的なポストプロダクションも施してはいるんだけど、何より70年代的なソングライティングに特化したレコードで。とにかく曲が良すぎる。全盛期のエルトン・ジョン、初期ブルース・スプリングスティーン、ビートルズ後期のジョン・レノン辺りのいいところ取り。


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ファーザー・ジョン・ミスティ『ピュア・コメディ』

─そうそう。

田中しかも、リリックはランディ・ニューマンみたいな皮肉満載で、サイケデリックでサイファイ的な世界観を使ってディストピアとしての今を語っている。ケイティ・ペリーみたいな直接的なトランプ批判じゃなくて、「エライ世の中になってますな〜、どいつもこいつも、勿論、この俺も愚かですなあ、ケケケケ」っていうユーモアで一枚作ったという。この人、カニエやテイラーのこともホント手当たり次第にからかう人なんですよ。ただ、誰かだけが悪いとか、誰かの味方につくとか、そういうことは絶対にしない。そういうスタンス、頭の良さ、底意地の悪さも含めて、白人が作ったロック・レコードの中ではダントツだったと思うな。

─しかも長いんですよね。74分もあるコンセプト作で。

田中70年代のロックにアクチュアリティがあった時代の貫禄もあるでしょ?でも、最初の4曲がポップ・ソングとしてはずば抜けてるんですよ。だから、この4曲だけを繰り返し聴いてもいいし、長尺のアルバムとしても聴いてもいいっていう作りになってる。そういうアイディアもすっごく現代的。

宇野インド系の天才コメディアン、アジズ・アンサリのNetflixのドラマ『マスター・オブ・ゼロ』では、ファーザー・ジョン・ミスティのコンサートのチケットがあれば、どんなクールな女の子もデートに誘えるってエピソードがありました。それなのに、2018年2月の来日公演※のチケットはまだ残ってるという(苦笑)。

※2月13日に大阪・梅田クラブクアトロ、2月15日に東京・渋谷TSUTAYAO-EASTで開催

田中ロックでいえば、あとはフォクシジェンの『ハング』。こちらも政治的っていうか、社会的なメッセージがあるのと、70年代ロックの引用や、スウィング・ジャズ以前の、いわゆるアメリカーナではない大衆音楽を再解釈したレコードだと思う。その2枚かな。ただ、これは最初に話しておかなきゃならなかったんだけど、2016年は本当に素晴らしいアルバムがいくつもあった。でも、2017年は曲単位では本当に凄かったんだけど、アルバムという単位では「おぉ!」と思わせるものはかなり数が限られてた気がする。

─じゃあ、2017年の1曲を選ぶなら?

田中本当なら200曲挙げたいんだけど(笑)、チャーリーXCXの「Boys」かな。彼女はもともと2017年にアルバムを出す予定で、2016年の後半に飛ぶ鳥を落とす勢いだったリル・ヨッティをヴァースに起用した「AfterTheAfterparty」っていう最高の曲を出したんだけど、何か揉めたんだか、レコード会社が首を縦に振らないからって、英国のアンダーグラウンドのプロデューサーたちと一緒に『ナンバー1エンジェル』というミックステープを作った。これもこれまでの彼女のアルバムより断然良かったんだけど、その後に出たのが「Boys」。チャーリーXCXってイギリス人で、10代でレイヴ・カルチャーの洗礼を受けてるんですよ。そこからアメリカに来てアイコンになった人なの。

─近年では珍しいケースですね。

田中リリー・アレンの妹みたいな存在っていうか。で、「Boys」の冒頭に”Iwasbusythinkinboutboys”ってフレーズがあるんだけど、ここでトリプレットっていうミーゴスが広めた、三連符のうち真ん中の音符を抜いたフロウを使ってる。もうそれが最高で。「ポップスが更新された!」感、ハンパないんですよね。それともう一つ。この「Boys」で、彼女は初めて自分で曲を書かなかったんですよ。

─それが異例なのは、もともと彼女がシーアとかと一緒で、セレーナ・ゴメスからブロンディにまで曲提供しているソングライターでもあるからですよね。

田中そう。なのにプロデューサーやソングライターに曲を作らせた。その代わりに彼女は自分でビデオを撮った。そういう判断だけでも破天荒で現代的でしょ?しかも、そのビデオっていうのが、アリシア・キーズみたいに「女は性の対象じゃない」と訴える代わりに、「男を性の対象にしちゃおう」っていうアイデアなの。ダイバーシティっていう2010年代的な命題にも目配せしつつ、カリード、マック・デマルコ、カール・バラー(ザ・リバティーンズ)、ONEOKROCKのメンバーを初めとして、いろんな国籍/肌の色/年齢/ジャンルの男性アーティストを60数人集めて、彼らにあからさまなセックスアピールをさせた。発想としては、2016年ヒットしたフィフス・ハーモニーの「WorkFromHome」と似てて。”Work”っていうのは、要するに夜のお仕事(営み)を意味しているんだけど。

宇野ブルゾンちえみのおかげで日本で流行った、オースティン・マホーンの2016年の曲「DirtyWork」もそうですよね(笑)。

田中そう(笑)。「WorkFromHome」のビデオは、ガテン系でムキムキな男が上半身裸で昼間働いてるんだけど、「夜の仕事もよろしくね」っていう女性の性欲を肯定した内容なのね。それと一緒で、チャーリーの「Boys」も男の子をセックス・ヴィクティムに仕立ててる。その手法ってクレヴァーかつユーモラスでしょ?何かを否定するんじゃなくて、逆転の発想によって視界を開せるという。そこがやっぱり新しいし、素敵だなと。

宇野さらに対談中(前編)も触れたように、この「Boys」は今のラップがポップ・ミュージックに影響を及ぼしたサンプルとしても象徴的だということですよね。

田中その通り。歌のフロウやビートもね。しかも、彼女って、「Boys」のビデオに出演した60何人のアーティストを見れば一目瞭然なんだけど、2010年代のポップ音楽の世界で起こったすべての交錯点なんですよ。だから、「Boys」のビデオを見れば、2017年のことが一発でわかる。

ただ一方で、2017年はレディ・ガガ以降、続々と登場した女性アーティストたちのセールスとプロップスが下り坂になった年でもあって。例えば、セレーナ・ゴメスの「BadLiar」は本当に素晴らしかったし、「Fetish」のビデオでもルーキーのタヴィ・ゲヴィンソン周辺のアーティスト、ペトラ・コリンズにペドフィリアぎりぎりのビデオを撮らせたり、さっき話したドラマ『13の理由』をプロデュースしたり、間違いなく2017年の顔の一人だったんだけど、彼女にしろ、チャーリーXCXにしろ、カーリー・レイ・ジェプセンにしろ、2017年はアルバムを出せなかった。セレーナの場合、ループスという難病を抱えているって理由もあるんだけど。でも、それぞれのシングル曲も売れまくったわけでは決してない。

宇野それよりも売れているのがブルーノ・マーズやウィークエンドであると。さっきも話したように、女の子は難しくなってきている感じはしますね。そのなかで、全部持っていっちゃったのがカーディ・Bの「BodakYellow」。彼女がみんな塗り替えてしまった。その横にミーゴスがいるっていうのも今後のカギを握っているような気がします(「BodakYellow」は全米チャート3周連続1位を記録。カーディ・Bはミーゴスのオフセットと婚約している)。

田中その通り。商業的にもプロップスの面からもカーディ・Bのひとり勝ちだった。リアーナ、ビヨンセという二人の不在の年が2017年だったってことでもあるんだけど。ま、リアーナはそこかしこで自由に暴れてはいたんだけどね(笑)。

アメリカの音楽業界は、ティーンエイジャーに対して誠実に音楽を作っている。(宇野)

─最後にRSのランキングを確認すると、6位のカリードにも触れておくべきかなと。彼はさっき話に出たロジックの「1-800-273-8255」でも歌ってましたよね。

宇野カリードは時代の声になっちゃいましたね。カルヴィン・ハリスの「Rollin」でも、(一緒にフィーチャーされた)フューチャーを食ってたし。

田中いやいや、「Rollin」のフューチャーのヴァースに勝てるものなんてないから(笑)。で、カリードの『AmericanTeen』は、リル・ヨッティが『TeenageEmotions』というデビュー作で失敗しちゃった”10代”というコンセプトを適切に使った作品だと思うんですよ。最近のR&Bシンガーだとジェレマイにしろ、ミゲルにしろ、最高なシンガーはたくさんいるんだけど、カリードは自分が10代の黒人であることをモチーフにしていることが最大のアドヴァンテージだった。タナハシ・コーツの『世界と僕のあいだに』のカジュアルな音楽版っていうか。そういう意味でも2017年を代表するレコードの一つだと思いますね。


田中宗一郎と宇野維正が語る2017〜2018年の洋楽シーン後編

カリード『AmericanTeen』
オルタナティブR&Bの新星として、シーンに颯爽と現れた98年生まれ。朴訥とした佇まいに10代らしい初々しさも窺えるが、メロウな音像を纏ったトラックを乗りこなす、ふくよかで哀感のこもった歌声は本格派シンガーの台頭を告げる。全米4位と好セールスを記録。

宇野リル・ヨッティの場合も自分が10代であることを前面に出していたけど、アルバムの内容はちょっと散漫でしたね。それに対してカリードが、自殺防止のメッセージ・ソングを通じて支持を広げたというのも象徴的な出来事だと思う。北米のカルチャーに対して思うのは、エンターテイメントの担い手たちが、”10代”をマーケットの対象としてだけではなく、一つの大きなテーマとして捉えていますよね。だから作り手の側も、ティーンエイジャーに対して誠実に音楽を作っている。日本の音楽業界ではティーンエイジャーは搾取の対象だけど、アメリカでは擁護や教育の対象としてみんな真剣に向き合っている。実は音楽性のギャップ以上に、こういう志のギャップの方が大きいのかもしれない。だってこれって、赤ちゃんを連れているお母さんに対して、どれだけ社会が寛容なのかっていうのと根っこは同じ話でしょ?若者や弱者に対する優しさや寛容さが、そのままポップ・ミュージックの質にも反映されちゃうんだなって。

田中ロックの時代から”10代”というのは重要なコンセプトで、そこにどう語りかけるべきかは本当に大事なんだけど。

宇野だから本当は、ミスチルやドリカムとかがティーンエイジャーに語りかけ続けなきゃいけないんだよ。U2がやってることってそれじゃん。

田中まあ、そこはbacknumberやSHISHAMOがきちんとやってるから(笑)。とか茶化したりして。ごめんごめん(笑)。

宇野ところで今気づいたけど、RSのチャートにはケラーニが入ってないんだ。それは少し意外だね。

田中彼女はかなりタフな境遇から出てきた人で。もう22歳とかだけど、やっぱり今の時代の10代を代表していたと思う。チャーリーXCXと並ぶ、ポスト・リアーナ的な存在っていうか、見事に自由で(笑)。サウンドにしても今のトレンドと、TLCとか90年代のテイストが合体してて、そこもいい。

─ケラーニの『スウィートセクシーサヴェージ』も2017年の話題作ですよね。サマソニでのライブも盛り上がってました。

宇野ていうか、日本では『ワイルド・スピードアイスブレイク』が大きいんだよね。あの映画のサントラは、2017年の洋楽でもベスト・ヒットの一つでしょ。あのシリーズのサントラは日本でもちゃんと売れる、数少ないアクチュアルな洋楽。

田中あれって、2016年のDC映画のサントラ『スーサイド・スクワッド』とすごく近くて。必ずしも作品集としてはベストではないんだけど、時代を知るためのオムニバスとしては最適なんだよね。ケラーニ以外にも、ミーゴス、ポスト・マローン、21サヴェージ、ヤング・サグ、リル・ウージー・ヴァート、リル・ヨッティと見事な横綱相撲になってて、取りあえずこのアルバム聴いときゃ何となく今はわかるよ、っていう。

宇野そうそう。だから僕はカルヴィン・ハリスと『ワイルド・スピード』が同時代のラップの入口になるんじゃないかと思ったんですよ。それで応援してたら、ヒップホップ村の人たちからゴチャゴチャ言われるという……(苦笑)。

─最後に、2018年の展望についても伺いたいです。

田中まず2017年はカニエが不在の年だったとも言えるでしょ?この10年、常に誰もやらなかった先鋭的なことを誰よりも最初にやる、時には倫理的に間違っているようなことさえやる、しかも、それを誰もが注目するしかないようなエグいやり方で、一番目立つ場所でやってきた。でも、それが2017年はついに途切れてしまった。ジェイ・Zとの不仲が大きいんだけど。でも、2018年初頭に予定されてるミーゴスの『カルチャーII』のプロデュースにかかわってるっていう噂があって※。だとしたら、2018年最初の話題はそれだと思う。

※この対談を収録したあと、2018年1月に『カルチャーII』がリリース。カニエが参加した「BBO(BadBitchesOnly)」も収録された

宇野フランク・オーシャンも、もうアルバムが完成しているって言ってますよね。彼の場合、普通にリリースするとはまったく思えないけれど。そういうメディアがつかみ切れない活動をしながらものすごいものが生まれるって状況は、これからもどんどん増えるだろうから、リスナーには能動性が求められますよね。そういえば、N.E.R.Dの新作はどうでした?

田中まだ聴いてないんだよね。でも、「Lemon」の、本当だったらbpm90台のビートを無理やり二倍にした高速バウンス・ビートとか、マジ意味わかんなかった(笑)。いい意味で(※取材時点で一般公開されていたのは「Lemon」と「1000」の2曲のみ)。


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N.E.R.D『ノー_ワン・エヴァー・リアリー・ダイズ』
ファレル、チャド・ヒューゴ、シェイ・ヘイリーの3人が再集結。リアーナ、エド・シーラン、フューチャーなどゲスト陣や、世相を反映したポリティカルな歌詞に注目が集まるなか、ケンドリック・ラマー&フランク・オーシャン参加の「DontDontDoIt!」が抜群の仕上がり。

宇野実はファレルって、常に今流行ってるものとは違うものを作り続けてきた人ですよね。今回もかなり奇抜なアルバムで。

田中これは2016年の話になっちゃうけど、映画『HiddenFigures』(邦題:ドリーム)のエンドロールで流れる「ISeeAVictory」はすごかったよね。リズムは60年代のR&Bなんだけど、そこにTR-808のスネアとハイハット、重低音をぶち込んでるの。これは誰もやってなかったなと。

宇野そうですね。ファレルは映画関係の仕事だと、そうやって素直に音楽的にすごいアウトプットもするんだけど、今回のN.E.R.Dでは今のシーンにないものを作ることだけに注力している。簡単に言うと、多くの曲がヒャダインがももクロに書いた曲みたいな構成で、テンポも速いし展開も多くて、違う曲どうしをくっ付けた感じというか。だからトラップみたいに、同じリズムが一曲のなかで続くのとは真逆。でも、今回リリックはファレル史上最もポリティカルですけどね。

田中へー、楽しみ。でも言われてみれば、2018年を考える上で、構成の問題はあるかも。ここ10年近くずっとループを軸にした反復がポップソング最大のトレンドだったわけじゃないですか。それが変化していくかもしれない。2017年のラナ・デル・レイの作品が出た時に、プロデューサーのリック・ノーウェルズが「彼女のソングライティングにはミドルエイトがあるんだよ。これは失われた伝統なんだ」って話してて。要するに、彼女の音楽にはヴァース、コーラスだけじゃなくて、日本で言う大サビもあるってことなんだけど。でも、J-POPは80年代初頭からずっとそうなわけだから、日本が何十年もなーんも変わらない間に時代が一巡しちゃったな、と思って(笑)。

ただ、それこそベックのレコードも、以前彼がヒップホップやファンクを参照してた時代とは違って、ループ主体じゃなくてフォークの作り方で構成がいくつもある感じだったし。そういう流れもあるにはあるから、2018年にはアメリカ人がaikoみたいな曲を作るようになるかもしれない(笑)。

宇野日本のリスナーには、たぶんそっちの方が伝わりやすいでしょうけどね。ただ、アメリカ人が飽きたというのはわかるけど、日本には全然伝わってこなかったわけだから、まずは現在進行形の音楽を飽きるまで体感してほしい(笑)。

田中まずはフューチャーの「MaskOff」を飽きるまで聴いてほしいよね。あの曲がヒットしたことによって2017年はドレイクからビョークに至るまでフルートを使った曲が大量に生まれたんだから。それこそ、ノエル・ギャラガーの新作の最初のシングル(「HolyMountain」)からリコーダーのリフが流れてきたとき、”ノエルが「MaskOff」を意識してたら、対抗意識丸出しで最高なんだけど”と思ったくらい(笑)。あの曲はそれだけ新しい発明だった。あと、MDMAとパコーセットでいう二大ドラッグの名前を連呼することで、今のトレンドを全世界に知らしめた。とにかくアメリカのラップを中心にすべてのカルチャーが繋がってる時代だから、その面白さに気付くと今のポップ・ミュージックがもっと身近に感じられるようになるんじゃないかな。

田中宗一郎
編集者。音楽評論家。DJ。立教大学文学部日本文学科卒業後、広告代理店勤務を経て、株式会社ロッキング・オンに入社。雑誌「ロッキング・オン」副編集長を務めた後、フリーに。97年に編集長として雑誌「スヌーザー」を創刊。株式E会社リトルモアから14年間刊行を続ける。現在はサインマグこと「ザ・サイン・マガジン・ドットコム」のクリエイティブ・ディレクター。飼い猫の名前はチェコフとアリア。

宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。東京都出身。音楽誌、映画誌などの編集部を経て2008年に独立。「MUSICA」「装苑」「GLOW」「NAVICARS」「文春オンライン」「Yahoo!」ほかで批評/コラム/対談を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社/くるりとの共著)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)。1970年生まれ。
田中宗一郎と宇野維正が語る2017〜2018年の洋楽シーン後編
外部サイト 田中宗一郎と宇野維正が語る2017〜2018年の洋楽シーン前編 ローリングストーン誌を飾った「ベスト・フォト2017」 ローリングストーン誌が選ぶ「2017年ベスト・ポップ・アルバム」20枚
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