椎名林檎が見せつけた“プロ作家”としての本質と底力 『逆輸入』シリーズが示すもの|にゅーじっく

2017年12月14日

椎名林檎が見せつけた“プロ作家”としての本質と底力 『逆輸入』シリーズが示すもの

1: 名無しさん 2017年12月14日 08:00:59 ID:0.net

椎名林檎が見せつけた“プロ作家”としての本質と底力 『逆輸入』シリーズが示すもの

椎名林檎が、他アーティストに提供した曲を自ら歌った『逆輸入〜航空局〜』を発表した。セルフカバー集としては、2014年の『逆輸入〜港湾局〜』に続く第2弾である。

(関連:椎名林檎という存在の回顧展ーー『椎名林檎と彼奴等がゆく百鬼夜行2015』を観て)

前回と同様に今回の収録曲も、2000年にともさかりえに提供した「少女ロボット」から今年にドラマ「カルテット」の主題歌として出演陣4人(松たか子、満島ひかり、高橋一生、松田龍平)がDoughnutsHole名義で歌った「おとなの掟」まで、幅広い時期の様々な作風が揃えられている。

もともとは打ち込み主体でノイジーだった「少女ロボット」ではストリングスが使われ、ヴィブラホンも入って雰囲気が変わり、椎名は囁き声で歌っている。オルタナロック風だった「おいしい季節」(栗山千明。2011年)は、一部に歪んだギターが登場するものの、やはりストリングス中心でボーカルを含め全体的にファンタスティック。これらは、若い女性が歌うことを前提に書かれた曲が持っていた少女性を強調するリメイクになっている。

一方、「野性の同盟」(柴咲コウ。2015年。『科捜研の女』シーズン15主題歌)は、軽みのある歌いかたは原曲を引き継いでいるが、ロック寄りのヘヴィなアレンジに生まれ直した。また、今回、「おとなの掟」が日本語詞から英語詞に切り替えられたのは、クラシカルな弦の美しさを味わってもらうため、意味より響きを選んだのだろう。これらは、提供相手にあわせて調整した元のアレンジに対し、曲を作った時点までさかのぼりサウンド重視で再構築したものらしい。

その他にも、ベテラン演歌歌手の石川さゆりに書いた3曲、野田秀樹の舞台『エッグ』用に作った「重金属製の女」(「TheHeavyMetallicGirl」ICHIGOICHIE名義=深津絵里。2012年)、SMAPに向けてライブでの盛り上がりも想定した「華麗なる逆襲」(2015年)など、異なる相手、シチュエーションにあてた様々なタイプの作品が、生み出した本人によって再解釈されている。各曲のポイントについては、椎名自身が『逆輸入〜航空局〜』の特設サイトで解説している。

『逆輸入』シリーズのようなセルフカバー集は、活動の本筋ではない企画ものととらえがちだが、実は椎名林檎というアーティストのありかたをよく示した作品なのではないか。彼女の歩みをふり返るとそう思う。デビュー時の椎名林檎から現在の椎名林檎まで一直線の活動ではなかったし、彼女は過去に自分の立場をリセットしてきたからだ。

1998年に『幸福論』でデビューした椎名は2ndシングル『歌舞伎町の女王』で注目され、『無罪モラトリアム』(1999年)、『勝訴ストリップ』(2000年)が大ヒットするなどカリスマ的存在になった。その過程では、猥雑でエキセントリックなパフォーマンスを行う不思議なキャラクターとして消費され、作品は彼女の自意識の表現であると受けとられた。だが、1998年には広末涼子に「プライベイト」、1999年にともさかりえに「カプチーノ」を書くなど、早くから外部への楽曲提供も行っていた(これら2曲は『逆輸入〜港湾局〜』に収録)。

インタビューを読むと、椎名は自分について、自意識を吐露するシンガーソングライターではなく、曲本位で考えるプロ作家ととらえる傾向が初期から強かった。このため、音楽以上にキャラクターが注目され、自意識が云々される状況に違和感を抱き、路線修正を図った。洋楽や昭和の歌謡曲を対象にしたカバー集『唄ひ手冥利〜其ノ壱〜』(2002年)を制作し、オリジナル第3作『加爾基精液栗ノ花』(2003年)を発表した後は、2004年に東京事変を結成してソロよりバンド活動に重点を置いたのである。

バンドは解散できるがソロは解散できない。そういう冗談を言うソロアーティストは少なくない。しかし、かつてデヴィッド・ボウイがTinMachineを結成したように、逆にソロアーティストがバンドを組むことで自らのイメージをリセットしようとする例はある。椎名林檎は、歌手であることに集中したカバー集の制作や、他のメンバーも曲を作るバンドの一員になることで初期の「椎名林檎」像を打ち消しにかかったととらえられる。

2012年に東京事変を解散して以後、再びソロアーティストとして存在するようになったが、それはリセットが完了し、上書きされた椎名林檎の姿だった。自己表現ではなく娯楽として音楽を創造し、パフォーマンスする自分も自身から距離を置いた作品として扱うのが、彼女のスタンスである。

そのようにたどり直すと『逆輸入』2作は、他アーティストに歌ってもらった自作曲をリメイクすることで「作り手冥利」と「唄ひ手冥利」を示した内容といえる。『唄ひ手冥利』は『其ノ壱』しか発表されていないが、その先に作られたのが『逆輸入』2作なのかもしれない。椎名林檎と音楽との距離感を象徴するシリーズだと思う。

バラエティに富んだ『逆輸入〜航空局〜』最大の聴きものは、やはり石川さゆりに提供した3曲だろう。『XCrossII』(2014年)で石川が歌った「暗夜の心中立て」、「名うての泥棒猫」、「最果てが見たい」を聴くと、椎名的なメロディであり、椎名的な歌いかたになっていると思う部分がある。その一方で『逆輸入〜航空局〜』を聴くと椎名の歌には、石川の節回しから影響を受けたのではないかと感じられるところがある。

椎名は初期から、漢字を多用し旧仮名も使った歌詞、古風な言い回しなど和のイメージの強調を一つの得意技としてきた。これら3曲でも和の技が駆使されているが、演歌畑の石川は当然、古風な日本語を歌うことには長けている。都々逸(江戸末期に三味線で歌われたもの)のような調子で艶っぽさを出したり、べらんめえ調(江戸の下町言葉)で凄むといった石川の歌における演技は、椎名に逆影響を与えたのではないか。このあたりの2人の相互刺激が興味深い。

演歌は「日本の心」といわれ、伝統芸のように思われている。確かに歌いかたに関しては「こぶし」をまわすことに顕著なように、浄瑠璃、民謡、小唄、浪曲といった伝統芸からの流れも含まれているが、バックのサウンドは明治以降に輸入された洋楽をベースに作られたのである。輪島裕介著『創られた「日本の心」神話「演歌」をめぐる戦後大衆音楽史』が再検証していたように、それまで流行歌、歌謡曲と呼ばれていた領域から「演歌」というくくりが浮上したのは1960年代だった。

以後も吉田拓郎や大瀧詠一を作曲に起用した森進一、坂本龍一の曲を歌った前川清など、非演歌のロック、ポップス系のアーティストと組んでチャレンジした演歌の例はしばしばみられる。近年、市川猿之助が歌舞伎の様式に現代的手法を加味したスーパー歌舞伎の新作として人気漫画『ONEPEACE』を舞台化したことが話題になったが、いわば“スーパー演歌”的なことが行われてきたのだ。

それに対し、石川さゆりは紅白歌合戦で定番の「津軽海峡冬景色」、「天城越え」を歌うだけでなく、フュージョン系のアレンジで制作した『童〜日本童謡唱歌集〜』(1988年)、岸田繁や奥田民生などロック、ポップス系の作曲家を起用した『XCross』シリーズ(2012年〜)など、“スーパー演歌”的なチャレンジを繰り返してきた人である。

かつて、「演歌」のくくりが成立してから1970年前後に演歌の星と呼ばれたのは、18歳でデビューした藤圭子だった。彼女の娘、宇多田ヒカルと椎名林檎の仲の良さは知られている。宇多田の8年半ぶりの復帰作『Fantôme』(2016年)には2人の共演曲が収められていた。そして、藤圭子の1969年のデビューシングルが「新宿の女」だったのに対し、19歳でデビューした椎名林檎は2ndシングル「歌舞伎町の女王」で「新宿系自作自演屋」を自称していた。初期には昭和歌謡のテイストとオルタナティブロックの合体で注目された椎名林檎は、和洋の融合という点では日本の流行歌のありかたを受け継いでいたし、藤圭子的な要素も持っていた。そんな椎名林檎と石川さゆりは異色の組みあわせではなく、むしろ互いに引きあって当然のコラボだったと思える。

石川に提供した3曲を中心とした『逆輸入〜航空局』は、プロ作家・椎名林檎の本質と底力を見せつけたアルバムなのである。(円堂都司昭)

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